シナリオ計画を用いて社会課題の将来起こりうる展開を共同で描くためのツール

シナリオ統合ワークショップとは?

シナリオ統合は、シナリオ計画の定性的要素と定量的要素を用いて、社会課題の考えうる展開を共同で作成するためのツールです。通常は、体系的な1日のワークショップで行います。 このツールは、様々な分野の専門家や実社会における当事者を含む、異なる業種や立場のグループで用いるのに適しています。

なぜ使うべきか?

未来志向もしくは変化志向の研究プロジェクトでは、考えうる展開について意見の相違が多々生じます。定性的な考え方と定量的な考え方の両方に対応しながら将来の見通しを立てるためには、人々が交流する場と言語が必要です。

いつ使うべきか?

将来について探索するとき、つまり可能性のある将来(目的の知識)を描き、選ぼうとするときに最も役に立ちます。研究者がシステム(システムの知識)を良く理解し、システムの変数を特定した後に使います。

どのように実施するか?

以下の進め方に沿って、1日でできるグループワークショップとして企画することを推奨します。

1

ファシリテーターは、ワークショップの目的とシナリオ計画を行う理由や主な専門用語を説明します。

2

参加者は具体的なシステムの境界について話し合い、これを定めます。

3

参加者はインパクト*の変数一式を集め、大まかに整理します。この変数は、社会課題とその将来展開を特徴づけるものです。(ワークショップを準備する際にインパクトの変数を各自集めるよう参加者に指示してください)。

4

参加者を2つのグループに分けます(サブプロジェクトがある場合、異なるサブプロジェクトのメンバーをバランスよく配置するようにしてください)。 グループ1は、インパクトの変数の分類と体系化をさらに進め、インパクトの変数ごとに将来の展開(予測)を特徴づける値の範囲を定めます(すべての変数は必ず「誰かのもの」である、すなわち参加者の少なくとも1人が決定できるようにしてください)。 グループ2は、将来の展開のさまざまなビジョンを直観的に考え、そのビジョンを明快な理解しやすい文章や絵で表現します。

5

全体で:2グループが相互に結果を発表し、質問に答えて不明点を明確にします。

6

2グループに分かれて継続: グループ1は、グループ2のビジョンをインパクトの変数と各値をもつシナリオとして表してみます。そうしながら、ビジョン間の矛盾やビジョンの変数ベースの記述同士に乖離がないかを確認します。
グループ2は、グループ1が提供するインパクトの変数と値を当てはめてビジョンを比較します。そうしながら、ビジョンが多様かどうか、すなわち値の異なるインパクトの変数をカバーしているかどうか確認します。さらに、ビジョンを描写するために重要なインパクトの変数もしくは値が欠落していないかを調べます。

7

全体で:2つのグループが相互に結果を発表し、質問に答えて不明点を明確にし、次の点を話し合います。
・比較可能だが違いのはっきりしたシナリオにするには、ビジョンの何を修正する必要があるか?
・全シナリオを適切に描写するには、インパクトの変数とその考えうる値にどんな修正をする必要があるか?
・ビジョン一式やシナリオ一式は不足していないか、追加で作成すべきか?
フォローアップ:
さまざまな研究者やサブプロジェクトによってシナリオがどう使われることになるか明確にすることをお勧めします。
作成したシナリオは後からさまざまな方法で評価することができますし、異なる未来の長所と短所を探求することもできます。それにより、適切で戦略的な行動につながります。

考え方の相違をどう埋めるのか?

シナリオ統合ツールは、定性的なビジョンづくりと定量的なモデリング手法を結びつけます。場(通常は1日でできるワークショップ)と言語(インパクトの変数、値、一貫性など)の両方が提供されるので、異なる思考をもつ集団同士のコミュニケーションと知識の相互学習が促されます。

アウトプット・アウトカム**は何か?

ワークショップの終わりには、異なるシナリオ一式のドラフトがある程度完成しているはずです。望ましいのは、すべてのシナリオが同じレベルで抽象化され、代入する値を変えた同じ変数の一式を用いて社会課題のさまざまな将来展開の予想を描写できていることです。 さらに、ワークショップ後に誰がこれらのシナリオを完成させるのか明確にしておくべきです。すべての研究者(もしくはサブプロジェクト)から、作成されたシナリオを以降の研究段階で使うという合意を得ると良いでしょう。 作業を通じてプロジェクトチームのメンバー間の相互理解を深めることができます。

誰がどんな役割を担うのか?

関係する研究者全員、もしくは各サブプロジェクトを代表する少なくとも1名の研究者に加えて、実社会における当事者も参加したほうがよいでしょう。
当事者を招く場合は注意を要します。「インパクトの変数」や「インパクトの変数の値」という抽象言語に詳しいこと、または進んで学んでもらうことが必要とされるからです。
あるいは、当事者の見解は、ナラティブ、ストーリー、ビジョンの形で別に集めてもよいでしょう。
シナリオ計画の説明、全体セッションの司会進行、グループ別セッションの補助のためにファシリテーターが1~2名必要です。

何を準備すればいいか?

研究チームのメンバー全員もしくは代表者を招き(全員対象の事前課題:考えうるインパクトの変数を個別に集める)、十分な時間(1日)を確保し、適切な部屋を用意し(同じ部屋でサブグループに分かれてワークショップができる広い部屋)、グループファシリテーションに必要な道具をそろえます(カード、ホワイトボード、フリップチャート、人数分のペンなど)。

やらないほうがいい場合

このツールは未来志向のプロスペクティブ(前向き)研究に有効です。シナリオ構築の目的と範囲について合意がない場合は使わないでください。

もっと知るには?

Gausemeier J, Fink A, Schlake O 1998. Scenario Management: An Approach to Develop Future Potentials. Technological Forecasting and Social Change, V59, N2, pp 111-130.

Schoemaker P J H 1995. Scenario planning: A tool for strategic thinking. Sloan Manage- ment Review, V36, N2, pp 25-40.

Von Wirth T, Wissen Hayek U, Kunze A, Neuenschwander N, Stauffacher M, Scholz R W 2014. Identifying urban transformation dynamics: Functional use of scenario techniques to integrate knowledge from science and practice. Technological Forecasting and Social Change, V89, pp 115-130.

【訳注】

*「*「インパクト」は、長期的に起こる、プロジェクトの影響。たとえば、将来の社会の状況。 「アウトカム」は、アウトプットによって達成される、中・長期的な効果・成果。

「アウトプット」は、短期的に得られる、活動の結果(成果物等)。「アウトカム」は、中期的に得られる、活動の効果・成果。



このページの内容はスイスアカデミーによる「知の協働生産のためのツールボックス」を翻訳したものです。

(URL:https://naturalsciences.ch/co-producing-knowledge-explained/methods/td-net_toolbox)


【引用例】

Stauffacher, M. 2020 Scenario integration. td-net toolbox profile (3). Swiss Academies of Arts and Sciences: td-net toolbox for co-producing knowledge.(ストファシャー, M. 大西有子監訳 2022 『シナリオ統合-td-netツールボックス ツールno.3』 総合地球環境学研究所)

リーフレットはこちらからダウンロードできます

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