心得
環境問題への取り組み、そして持続可能な社会の実現は、私たちの生活様式や企業の生産方式など人間社会の活動と大きく関連しているため、専門家だけでなく全ての人たちの知恵や工夫、選択や行動が重要になります。また一人ひとりの努力に加え、社会変化を促すための政策や制度も重要な鍵を握っています。人と社会が環境問題に協力して取り組むことが理想ですが、現代では環境問題の複雑化や利害関係者の多様化により共通の認識や解決策を持つことが難しくなっています。現代社会では組織が縦割り化され、専門機関も細分化されているため、それらを検討することさえ容易ではありません。そんな困難を乗り越えて、問題の共有と解決策の探求を可能にさせるためのヒント集をつくりました。
『共創の心得』最新版
『共創の心得』最新版が完成しました。(下の『TDパタン』の改良版です。)トランスディシプリナリー手法やアクション・リサーチなど、ステークホルダーとの共創を行ってきた研究者13名から、共創がうまくいくためのコツや秘訣を聴き取り、パタン・ランゲージを使って35の心得(パタン)を特定しました。
右の画像をクリックすると電子版をPDFでダウンロードできます。ぜひご覧ください。
パタン・ランゲージとは
パタン・ランゲージは、建物や町をデザインするための指針を体系化したものです。クリストファー・アレグザンダーの著書『パタン・ランゲージ―環境設計の手引』では、建物や町を構成する各要素について、ある状況で発生する問題をデザインによって解決する際の指針をパタンと呼び、町全体から住宅、そして庭、部屋など253のパタンが提示されています。文法にしたがって言葉を組み合わせると文章が完成するように、パタンを組み合わせて調和のある建物や町をつくることを目指して、建築家と市民の共通言語として提唱されたのがパタン・ランゲージです。
知の共創のためのパタン・ランゲージ
建築・都市の設計を対象とするアレグザンダーの発想をヒントに、研究者だけではなく、政策立案者や自治体、企業、NPO、地域住民と研究者が一緒に環境問題に取り組むためのパタン・ランゲージをつくることを私たちは考えました。多様な立場の人々が環境問題をめぐって課題と目標を共有し、解決のためのアイディアを議論し、取り組む際には、対話のための心得を知り、指針を持つことが役に立ちます。たとえば「相手に伝わる言葉で」というパタンが考えられます。国際化や分業が進んだ社会では専門用語や外来語があふれ、市民と専門家など立場の異なる者同士のコミュニケーションを難しくしています(問題)。したがって、知の共創のためには、できるだけ平易な、相手に伝わる言葉で話すことが重要です(解決)。また「一緒に探求を楽しむ」というパタンも考えられます。なぜなら環境問題には簡単な解決策はなく、創造的に取り組まなければならないからです(状況と問題)。そのためには、専門家も市民も新しい考え方やアイディアを探求する苦労を一緒に楽しむスタンスが求められるでしょう(解決)。知の共創プロジェクトは、環境問題に協働で取り組んだ経験をさまざまな立場の方から聞き取り、共創のプロセスにおいて生じる問題と解決策をパタンとして表現し、「共創の心得(TDパタン)」として広く共有することを目指しています。
TDパタン例
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相手に伝わる言葉で
問題
国際化や分業が進んだ社会では外来語や専門用語があふれ、市民と専門家、異業種間のコミュニケーションを難しくしている。
解決
できる限り平易な、相手に伝わる言葉で話すことを心がける。
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「違い」の意識
問題
国内であれば普段はそれほど意識しない地域社会による文化や暮らしの違いや、世代による考え方や価値観の違いもコミュニケーションの摩擦を生む要因になる。
解決
新しい言葉(概念)がなぜ必要かを普通の日本語で伝えることで、問題解決の新しい可能性を一緒に考えることができる。
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特技を生かす
問題
地域社会やコミュニティからの信頼がなければ、部外者の専門家や研究者が継続的に活動を続けることは難しい。
解決
例えば研究者なら自分の特技を生かして相手が知りたい情報を調べて伝えたり、事例や知識を提供することで、信頼関係の土台を築くことができる。
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一緒に探求を楽しむ
問題
環境問題には簡単な解決策はなく、創造的に取り組まなければならない。
解決
専門家も市民も新しい考え方やアイディアの探求を一緒に楽しむ姿勢が求められる。