アクター・コンステレーション
多様な関係者の関連を明らかにし、具体的な研究課題に取り組んでいくためのロールプレイ
アクター・コンステレーションとは?
参加する人たちが、プロジェクトに関与するすべての科学的アクター(訳注:研究者など)と社会的アクター(訳注:住民など)に扮して、プロジェクトが対象とする研究課題を取り囲むような位置に立ちながらすすめるロールプレイです。各アクターと研究課題との距離、またアクター同士の距離は、プロジェクトにおけるそのアクターの関連の強さを示します。
なぜ使うべきか?
プロジェクトチームのメンバーは、他のアクターがそのプロジェクトとどう関連し、潜在的にどう貢献し得るかについて暗黙の想定をしている場合があります。この手法はそういった暗黙の想定事項を各アクターに見える形で提示し、また、適切な位置関係を共同で協議・決定することができます。
いつ使うべきか?
プロジェクトの早期に実施すべきです。チームが構成され、問題の枠組みを設定する際に行うのが理想的です。
どのように実施するか?
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プロジェクトリーダーは、プロジェクトが対象とする研究課題をラベル用紙に書きます。そして、その研究課題に取り組むために最も重要なアクター(各学問分野の代表者、市民社会や公的/民間セクターからのステークホルダー)を最大10名分を設定し、そのアクター名をラベル用紙に記入します。
2
モデレーター(進行係)は、参加者の中から各アクター役を指名して、それぞれにラベルを貼り付けます。参加者が自分の役割についてあまりよく分かっていない場合(「一般大衆」や「意思決定者」などアクター名が抽象的な場合)は、モデレーターは分かりやすい説明をプロジェクトリーダーに求めます。
3
プロジェクトリーダーは、研究課題を書いたラベルを部屋の真ん中に置き、上述のルールに従って各アクターをその周りに配置します。プロジェクトリーダーは、なぜ各アクターがその位置に立たされているのか、その位置でアクターは研究課題にどのような対処するのか(「情報」や「制度面でのサポート」など)を参加者に説明します。その際、プロジェクトリーダーがアクター同士をどう関わらせるつもりなのか、矢印を用いて示しても良いでしょう。
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各々の位置についたアクターは、そのコンステレーション(配列)をもとに対応していきます。モデレーターはアクターに、(a) その研究課題に必要な特定のアクターが欠けていないか、(b) 自分が正しくない位置にいると思うアクターはいないか、もし自分がそうであると思うのならどこが正しい位置か、また、なぜそう考えるのかを尋ねます。そういったディスカッションを通じてアクターのコンステレーションは変化していきます。モデレーターは、たとえばディスカッション中に生じたコンステレーションの主な変更点をまとめるなどして、ディスカッションを終えます。(Pohl, 2014)
どのように考え方の相違を埋めるか?
この手法は、プロジェクトチームのメンバーが暗黙の想定として考えている、各アクターが研究課題にどう関連し、どう貢献し得るかについて、見える形で明確に提示することで考え方の相違を埋めていきます。こうして暗黙の想定は周知のものとなり、それについて熟考とディスカッションができるようになります。
アウトプット・アウトカムは何か?*
通常、このアウトカムとして得られるのは当初と異なる修正版のコンステレーション(配列)です。そこに新たなアクターが加えられることもあるし、場合によってはアクター同士が互いにより近くなる、関連が弱くなる、あるいは姿を消すこともあるかもしれません。結果として、プロジェクトのチームや組織を考え直すことができます。
【訳注】
*「アウトプット」:短期的に得られる、活動の結果(成果物等)。「アウトカム」:中期的に得られる、活動の効果。
誰がどんな役割を担うのか?
グループで実施する場合は、モデレーター(進行役)が進めていくことになります。この手法はロールプレイなので、各アクターが自らと同じ立場を演じてはいけません。プロジェクトの参加者、プロジェクトとは関係のない人物、そのどちらも役割を演じることができます。また、紙を切ってアクターを記載すれば、個人でもこの手法を行うことができます。このようにすれば、科学的アクターと社会的アクターが研究課題への対処にどう貢献するかについて、自らの考えを明確化しやすくなります。
何を準備すべきか?
手順を理解し、ラベル用紙、ペン、場所を用意すれば実施できます。
もっと知るには?
Pohl C 2014. From complexity to solvability: The praxeology of transdisciplinary research. In Huutoniemi K, Tapio P (eds). Transdisciplinary Sustainability Studies. A Heuristic Approach, pp 103-118. Abingdon, Oxon: Routledge.
Pohl C, Kruetli P and Stauffacher M 2017. Ten Reflective Steps for Rendering Research Societally Relevant. GAIA 26/1 (2017): 43 – 51.
このリーフレットは、td-netによる「知の協働生産のためのツール集」を翻訳したものです。最新の情報については、td-netのウェブサイトをご覧ください。
(https://naturalsciences.ch/co-producing-knowledge-explained/methods/td-net_toolbox)Pohl, C. 2020. Actor constellation. td-net toolbox profile (2). Swiss Academies of Arts and sciences: td-net toolbox for co-producing knowledge. (ポール, C. 大西有子監訳 2022 『アクター・コンステレーション: td-netツー ルボックス ツール No.2』 総合地球環境学研究所)