デルファイ調査
ある問題に対する専門家の見解を、評点と根拠に基づいて集約するための調査。
デルファイ法とは?
デルファイ法は、アンケート調査と協議を組み合わせた、専門家が行う調査法です。専門家に特定の問題に関する質問への回答と、ほかの専門家による回答の評価を依頼し、その判断の裏づけも示してもらいます。これを複数回行います。専門家は、前回ほかの専門家が行った評価と根拠を受けて、自分の評価を修正することができます。
なぜ使うべきか?
デルファイ法の興味深い点は、前回の評価と根拠を何度も再考することで、特定の問題に対するグループ全体の見解が根拠に基づきながら集約されるところです。
いつ使うべきか?
デルファイ法は、プロジェクト初期の問題のフレーミングに役に立ちます。問題を検討して整理する段階や、問題の最初の分析が必要な段階です。
どのように実施するか?
専門家グループを編成した後、デルファイ法は概ね次のステップで進めます。
1
ファシリテーターは、対象の問題について、自由回答形式の質問(オープンクエスチョン)をします(選択肢は与えない)。
2
ファシリテーターは、その問題に対する個々の専門家の見解を集めます。その際ファシリテーターは、ステップ1の回答を要約します(つまり、定性的な内容分析に従ってコード化し、言い換える)。次に専門家は、一つ一つの回答に対し、どの程度合意できるかを点数で評価し、評点の理由も述べます。
3
ファシリテーターは、ステップ2の初回の評価を検討し、意見の相違がないか調べます。その際ファシリテーターは、質問ごとにグループ全体の評点を集計し(平均、最小、最大など)、賛成意見と反対意見をまとめます。その後専門家は、グループ全体の評点と賛否両論を考慮して自分の初回の評価を再考します。
4
ファシリテーターは、グループ全体の評点を再集計し、デルファイ調査の結果を要約します。結果のまとめには、一般に平均値と専門家の評点の分布を示し、賛否両論も含めます。
考え方の相違をどう埋めるのか?
ほかの専門家の見解に照らして自分の評価を再考することによって考え方の相違が埋まります。その過程で専門家は、ほかの専門家がなぜ、どのように異なる評価もしくは同じ評価に至ったかを考えることになります。
アウトプット・アウトカムは何か?*
デルファイ調査により、検討中の問題に対する専門家グループの合意・不合意の内容と度合いが分かります。一般に結果は、平均値と専門家の評点の分布、さらに評点に対する賛否両論も加えた形式で示されます。
誰がどんな役割を担うのか?
デルファイ調査はファシリテーターが実施します。ファシリテーターはアンケート調査の設計と定量分析および定性的な内容分析についての基礎知識が必要です。 専門家は調査に回答し、途中結果への判断を行います。あらゆる分野の専門家が参加できます。
何を準備すればいいか?
デルファイ法は、調査を実施するファシリテーターはもちろん、参加する専門家にとっても時間がかかります。したがって、前もって専門家に複数回の調査に回答し、自分の評価を裏づける必要があることを伝えておくべきです。オープンクエスチョンと定性的な内容分析の量によってファシリテーターの作業量は増えます。ファシリテーターは、調査票の作成や定量・定性分析の経験が必要です。
また、問題を特定し、調査票を準備し、適切な専門家を見つける必要があります。
やらないほうがいい場合
多くの場合、デルファイ法はコンセンサス(合意)を得るために使われますが、これは適切ではありません。デルファイ法は、合意・不合意を明確にし、それぞれの根拠となる賛成意見と反対意見を示すものです。
もっと知るには?
Linstone H A, Turoff M 1975. The delphi method. Techniques and Applications. Reading: Addison-Wesley. pp 5-6.
McDonald D, Bammer G, Deane P 2009. Research Integration Using Dialogue Methods. Canberra: ANU E-Press. pp 41-50.
【訳注】
*「アウトプット」は、ツールを使った結果として得られる状態や物(成果物)。「アウトカム」は、アウトプットによって達成される、中・長期的な効果・成果。
このページの内容はスイスアカデミーによる「知の協働生産のためのツールボックス」を翻訳したものです。
(URL:https://naturalsciences.ch/co-producing-knowledge-explained/methods/td-net_toolbox)
Pohl, C. 2020 Delphi poll. td-net toolbox profile (14). Swiss Academies of Arts and Sciences: td-net toolbox for co-producing knowledge. (ポール, C. 大西有子監訳 2022『デルファイ調査:td-netツールボックス ツール No.14』総合地球環境学研究所)