トランスディシプリナリー(超学際/TD)プロジェクトで望ましいアウトカムを計画するためのフレームワーク

アウトカム・スペース・フレームワークとは?

トランスディシプリナリー(超学際/TD)プロジェクトの参加者にとって望ましいアウトカムについて熟考し、分類する枠組みです。
TDのアウトカム・スペースは3つの主要な領域(状況、知識、学習)に分けられ、それぞれ、
   (1)探求する状況の改善や分野の進展、
   (2)学術的知識、ほかの社会的知識の形態など、関連する知識のストックとフロー
           の生成、
   (3)変化の持続可能性を高める、研究者と研究参加者との相互かつ変容につながる
           学習、として、定義されています。

なぜ使うべきか?

知識共創プロセスの参加者は様々な理由でプロジェクトに入り、プロジェクトのアウトカムに様々な「期待」(または想定)をします。プロジェクトの早期にアウトカム・スペース・フレームワークを行うことで、各々の期待について話し合い、プロジェクトチーム、またはプロジェクトの境界内外において、望ましいアウトカムはどれなのかを共同で明らかにすることができます。各々のアウトカムに対する期待が曖昧なままだと、たとえば、どの方法論を採用するか、どのステークホルダーが参画するのか、議論を長引かせてしまう可能性があります。また、このフレームワークを行うことで参加者はアウトカムにさまざまな局面があると気づくようになります。たとえば、現在の状況を改善するための具体的なアウトカムを期待している参加者が、新たな知識の生成や学びにつながるアウトカムについて考えるきっかけになるかもしれません。

いつ使うべきか?

理想的にはプロジェクトの開始直後に行い、最終的なアウトカムを議論し、計画すべきです。ほかにも、プロジェクト参加者のアウトカムに対する期待が異なる場合、一面的な場合、曖昧な場合にも利用できます。

また、プロジェクトの中間評価にも利用できます。(オンラインの体験レポートをこちらから参照可能。(bit.ly/2umip2L))このタイミングで実施すると、プロジェクト開始時に意図したアウトカムと実現しつつある実際のアウトカムを比較することができ、プロジェクトの残り期間で望ましいアウトカムを実現するにはどのような変化が必要かを明らかにするのに役立ちます。

どのように実施するか?


左図は3つのアウトカム・スペース(OSF)の概念マップ(1.状況、2.知識、3.学習)で、より大きな状況に埋め込まれたTDプロジェクトを表す(Mitchell et al., 2015)。右図はOSF+(知識のストックとフローを区別する場合(Duncan et al., 2020))の概念マップ。

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モデレーターは、厚紙などに表示したアウトカム・スペースの概念マップを紹介し(図参照)、3つのスペースについて次のように説明します。

「第一のアウトカム・スペースは「状況」内や探求分野内(研究者とクライアントの日常的な世界)における改善です。状況の変化は、制度的なもの(例:政策の変更)、または自然科学的なもの(例:効率のよい水利用)、いずれもありえます。第二のアウトカムは、確立された学術的知識と、他の形態の知識をはじめ関連する知識(意思決定ツール、産業界における各種報告書、インタラクティブなウェブサイトやアプリなど)のストックとフローの生成です。研究参加者(研究者とクライアント)と広範な受益者(すなわち産業部門の関係者や一般市民)の双方が有意義な知見を得られるようにするためです。最後に、研究者と研究参加者の双方による変革を伴う相互学習に関するアウトカムは、変化が継続する可能性を高めます。」(Mitchell et al., 2015)

さらに、モデレーターが知識のストックとフローの違いを解説することもあります。ストックとは研究を行うこと、新知識の創造、厳密な学術的知識、科学論文の執筆を指し、フローとは必要な人、望む人に有意義かつ役立つ方法で研究を利用できるようにすること(Duncan et al., 2020)を指します。

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参加者は各自の「期待」をカードに書きます。同じアウトカム・スペースに複数の期待を書くこともできますし、必ずしも3つのスペースすべてに期待を書く必要はありません。

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参加者はカードを概念マップに貼り、アウトカム・スペースのどれかに置きます。

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モデレーターは各スペースをチェックして、参加者に各自の期待について一言述べるように求めます(たとえば目的が「研究者の期待と社会の他部門の代表者の期待が異なるかどうかを明らかにすること」であれば、参加者の種類ごとに色分けしたカードを使う方法があります)。

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必要に応じてグループで話し合い、それぞれの期待がプロジェクト境界の内側に入るか外側に入るか、これらの望ましいアウトカムをどうすればプロジェクト計画に組み込むことができるかを決めます。

考え方の相違をどう埋めるのか?

他の参加者がどのアウトカムを期待しているかを知ることで、考え方の相違も含めた参加者同士の理解が深められます。

アウトプット・アウトカムは何か?

プロジェクト参加者たちが期待するアウトカムをまとめた概念マップがアウトプットです。概念マップには、検討中の状況、知識のストックとフロー、学習との関連に基づいて、参加者期待が分類されています。上記実施手順のステップ5を行った場合、期待されるアウトカムがプロジェクト境界の内側に入るか、外側に入るかも分類することができます。

誰がどんな役割を担うのか?

プロジェクトチームのメンバーが参加者となり、グループで共有する前に個別に自分にとって望ましいアウトカムをよく考えます。モデレーター1名がプロセス全体を進行します。

もっと知るには?

Mitchell C, Cordell D, Fam D 2015. Beginning at the end: The outcome spaces framework to guide purposive transdisciplinary research. Futures 65, pp 86-96. doi.org/10.1016/j. futures.2014.10.007.

Duncan R, Robson-Williams M, Fam D 2020. Assessing research impact potential: using the transdisciplinary Outcome Spaces Framework with New Zealand’s National Science Challenges. Kōtuitui: New Zealand Journal of Social Sciences Online: doi.org/10.1080/1177083X.2020.1713825.


【訳注】
✽「アウトプット」:短期的に得られる、活動の結果。
   「アウトカム」:中期的に得られる、活動の効果。


 

★このウェブページの情報は、スイスアカデミー『td-net ツールボックス』の英語(オリジナル)版を翻訳したものです。訳文の質と解釈に関しては監訳者(大西有子)に責任があります。(This profile has been translated into Japanese by Yuko Onishi. Cultural translation and quality assurance is in the responsibility of the translator.)
スイスアカデミー『td-net ツールボックス』 https://naturalsciences.ch/co-producing-knowledge-explained/methods/td-net_toolbox


 

原   題:Outcome spaces framework. td-net toolbox profile (9)
著   者:Prof. Dr. Cynthia Mitchell
     A/Prof. Dr. Dena Fam
    University of Technology
    Sydney • Institute for Sustainable Futures
発行所:Swiss Academies of Arts and Sciences (a+)
    Network for Transdisciplinary Research (td-net)
    www.transdisciplinarity.ch • td-net@scnat.ch • @td-net
    House of Academies • Laupenstrasse 7
    P.O. Box 3001 Bern • Switzerland


アウトカム・スペース・フレームワーク(td-netツールボックス ツール No.9)
監   訳:大西有子
発行日:2023年10月1日(改訂第2版)
発行所:総合地球環境学研究所

リーフレットはこちらからダウンロードできます

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