研究と実践を対象とした専門分野にある暗黙の前提と共有認識を明らかにし、他の分野の考え方と対比させるためのツール

ツールボックス・ダイアログ・アプローチとは?

ワークショップ形式で対話を始めるために使われる質問と文のセット(「ツールボックス」と呼ぶ)を使う手法です。研究者が自分の(専門分野の)考え方と研究協力者の(専門分野の)考え方を認識するために役立ちます。

なぜ使うべきか?

多くの場合、さまざまな経験を持つ研究者は、皆が同じ研究や実践に対する考え方をしていると思っています。実際には、専門分野が異なれば、手法や正しい研究計画、信頼できる根拠のソースも異なります。ツールボックス・ダイアログ・アプローチは、シンプルな(哲学的な)質問によって、こうした根底にある前提を明らかにします。たとえば、「科学的根拠になるデータの種類は?」のような質問です。根底にある前提を浮かび上がらせ、明示すると、相互理解が深まり、共通する基準があるか考えられるようになります。

いつ使うべきか?

知識生産の協働プロセスの早い段階で使い、協力のための健全な土台を築くのが、最も有効です。

どのように実施するか?

ツールボックス・ダイアログ・アプローチを用いたワークショップの基本ステップは次のとおりです。

1

ファシリテーターは、ツールボックスを配り、プロンプトに個別に回答してくださいと参加者に指示します。プロンプトは、オープンクエスチョン(自由回答の質問)のリスト、またはリッカート尺度の選択肢(そう思う、どちらとも言えない、など)を選んで回答する文のリストです。

2

グループの人数に応じて、個々の回答をグループ全体かサブグループで話し合います。このディスカッションは、ファシリテーターが少し進行役をすることも、自発的に進めることもあります。

3

リッカート尺度の場合、ディスカッションの結果、変化したかどうか確認するために、2度目の回答を参加者に求めることもできます。

4

全員でツールボックスの体験について話し合ってワークショップを終了します。

考え方の相違をどう埋めるのか?

根底にある前提を明らかにすることで専門分野間の考え方の相違を埋め、研究者が自分の専門分野と他分野の世界観をより深く理解できるようにします。

アウトプット・アウトカムは何か?

個人にとってのアウトカムは、専門分野の世界観が明確になることです。グループとしてのアウトカムは、異なる前提と立場が明確になることです。

誰がどんな役割を担うのか?

ファシリテーターがワークショップを進行します。プロジェクトに関わるさまざまな分野の研究者が参加者です。

何を準備すべきか?

ツールボックス・ダイアログ・アプローチの詳細を知るために資料を1つ読んでおくこと、そして、ツールボックス(ワークショップで使う質問と文のリスト)です。オープンクエスチョンのリストはEigenbrode et al. 2007年に、リッカート尺度の選択肢を選んで回答する文のリストはSchnapp et al. 2012年とO’Rourke et al. 2014年を参照してください。

やらないほうがいい場合

ツールボックス・ダイアログ・アプローチは、もともと専門の異なる研究者グループのために設計されたものです。プロンプトは、研究者がよく知っている問題に対応していますが、研究者以外の社会のステークホルダーには対応していません。そのため、オリジナル版のツールボックスはさまざまなステークホルダーがいるグループでは使わないでください。ただし、現在、ステークホルダーの対話を促す新しいツールボックスの開発が進んでいます。

もっと知るには?

Hubbs, G, O’Rourke, M, Orzack, S H (eds) 2021. The Toolbox Dialogue Initiative: The Power of Cross-Disciplinary Practice. Boca Raton, FL: CRC Press.

O’Rourke M, Crowley S, Eigenbrode S D, Wulfhorst J D (eds) 2014. Enhancing Communication & Collaboration in Interdisciplinary Research. Thousand Oaks, California: SAGE Publications.

Eigenbrode S D et al. 2007. Employing philosophical dialogue incollaborative science. Bioscience, V57, N1, pp 55-64.

Schnapp, L M, Rotschy, L, Hall, T E et al. 2012. How to talk to strangers:facilitating knowledge sharing within translational health teams with the Toolbox dialogue method. Transl. Behav. Med. Pract. Policy Res. 2, pp 469–479. doi.org/10.1007/s13142-012-0171-2.


【訳注】
✽「アウトプット」:短期的に得られる、活動の結果。
   「アウトカム」:中期的に得られる、活動の成果。


 

★このウェブページの情報は、スイスアカデミー『td-net ツールボックス』の英語(オリジナル)版を翻訳したものです。訳文の質と解釈に関しては監訳者(大西有子)に責任があります。(This profile has been translated into Japanese by Yuko Onishi. Cultural translation and quality assurance is in the responsibility of the translator.)
スイスアカデミー『td-net ツールボックス』 https://naturalsciences.ch/co-producing-knowledge-explained/methods/td-net_toolbox


 

原   題:Toolbox dialogue approach. td-net toolbox profile (12)
著   者:Dr. Christian Pohl
    ETH Zurich • Transdisciplinarity Lab (TdLab)
発行所:Swiss Academies of Arts and Sciences (a+)
    Network for Transdisciplinary Research (td-net)
    www.transdisciplinarity.ch • td-net@scnat.ch • @td-net
    House of Academies • Laupenstrasse 7
    P.O. Box 3001 Bern • Switzerland


ツールボックス・ダイアログ・アプローチ(td-net ツールボックス ツール No.12)
監   訳:大西有子
発行日:2023年12月1日
発行所:総合地球環境学研究所

リーフレットはこちらからダウンロードできます

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