デザイン思考
共同プロセスの重要な出来事について過去を振り返って整理するためのストーリーを基本にした定性的(質的)方法
デザイン思考とは?
デザイン思考は共同作業の問題解決戦略です。デザイン思考は
a)問題に関わる人々のニーズを研究者/専門家の問題観察に結びつける。b)問題の革新的な見方を生み出すことに焦点を当てる。
c)プロトタイプの作成と検証のなかで視覚化、ストーリーテリング、実験を取り入れる。
なぜ使うべきか?
研究において、デザイン思考の目的は、(1)研究設計をステークホルダーと協働して行なうこと、(2)研究成果の実施に関する戦略を協働設計することです。このアプローチは、問題を新しい方法でフレーミングすることが、より実行可能で革新的な解決策につながるという前提に基づいています。教育においては、デザイン思考は、学生の協働スキルを育て、学際的な環境で複雑な問題に取り組むために活用できます。
いつ使うべきか?
デザイン思考が最も効果的なのは問題が定義される前です。それより後の段階では、既存の問題の定義を柔軟に変更できることが求められます。
どのように実施するか?
デザイン思考の5ステップの方法論は、人間中心の考え方に根ざしています。このステップはモデレーター1名が進行するグループワークのプロセスです。グループ構成とステークホルダーの関与度には幅があり、プロジェクトの主要目的に合わせるべきです(たとえば、教育か、プロダクト/解決策の実行か)。
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共感―グループで問題状況に関する情報を集め、また特定のテーマに関する洞察を集めます。こうした洞察は時間と場所が具体的で、通常は矛盾を正確に指摘し、なぜ・どのように事が運ぶのか説明するものです。ここでグループのメンバーは問題状況の発生源の現実の文脈に浸ってください。その方法としては、観察、インタビュー、グループディスカッション、ワークショップ、その他さまざまなアプローチがあります。さらに、文献レビュー、実験、何らかの分析プロセスからも洞察を引き出せます。
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定義―グループでメンバーにとって最も驚くべき洞察、意味のある洞察を特定し、合意します。メンバーが最も関連性の高い洞察について合意に至ることができなければ、より体系的なアプローチをとり、洞察どうしを関連づけるか、洞察をグループ分けする方法もあります(たとえば、同じステークホルダー、機関などによって共有されている洞察)。
選択した洞察に基づいて、メンバーがPOV(着眼点)問題ステートメントを作成します。このステートメントは、次のように3つの部分で構成されます。
{ステークホルダーX}は、○○○{洞察}だから/に起因して/だけれども、○○○{特定の要求もしくは欠乏}を必要としている/欠いている。
洞察を異なるステークホルダーに結びつけると、1つの洞察から複数の問題ステートメントが作成されることがあります。
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観念化―各問題ステートメントに焦点を合わせて、グループで潜在的な解決策をブレインストーミングします。メンバーはそれぞれ1枚の紙に、問題に関連して真っ先に頭に浮かんだことを書き留めます。次に、まず誰かが自分の考えを声に出して話し、その紙をテーブル中央に置きます。次のメンバーは1人目の発言に基づいて話をするか、新しい考えを話し、この新しい考えの紙を一番上に置きます。
このブレインストーミングセッションは、1回2分間を数回で行ないます。時間のプレッシャーがあることで、意外な発想を生み出す効果が期待できます。
このブレインストーミングに体の動きを組み合わせる方法もあります。その場合、モデレーターは参加者に円になって前や後ろへ歩くように指示し、違う種類のアイデアを引き出します。個別のブレインストーミング、グループでのサイレントブレインストーミング* という選択肢もあります。
「アイデアに対する判断は言わない」ということさえ守れば、ブレインストーミングに誤ったやり方はありません。この段階でアイデアの議論をするべきではありません。目的は、できるだけ多くの異なるアイデアを出すことであり、個々のアイデアのメリットを主張することではありません。
ブレインストーミングが終わる頃には、アイデアが山積みになっているはずです。科学分野の場合、この時点では、必要な解決策の種類の基準リストを作成し、この基準に従ってアイデアを選択することが有益かもしれません。
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プロトタイプ―グループのメンバーが、選択したアイデアを形ある具体的な物か概念をまとめたレポートにします。こうしたプロトタイプは、手工芸の材料ほか手に入るものを何でも利用して作成してください(粘土、パイプクリーナー、レゴブロック、段ボール、ゴムバンド)。目的は、アイデアをより具体的にし、その盲点を見つけることです。
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検証―プロトタイプをほかのステークホルダーになるべく早く提示します。そのアイデアの実行によって影響を受ける可能性のある人の意見が有益です。目的は、アイデアを発展させている段階の早いタイミングでこのフィードバックを反映させて、アイデアを速やかに改善することです。
考え方の相違をどう埋めるのか?
解決策を設計する前に、グループのメンバーが共同で問題ステートメントを作成し、合意するときに考え方の相違が埋まります。したがって、デザイン思考の方法論には、異なる問題認識の間の合意もしくはディスカッションが組み込まれています。
アウトプット・アウトカムは何か?**
ステークホルダーの明白なニーズに関連した特定の問題に対処するプロダクト、サービス、戦略、概念のプロトタイプ。
誰がどんな役割を担うのか?
プロセスを円滑に進めるためにモデレーターが1名必要です。デザイン思考の経験があれば理想的ですが、初めてデザイン思考をやってみようという人にはオンラインで入手できる資料が参考になるでしょう。参加者については、デザイン思考に関する事前の経験は不要です。
何を準備すべきか?
グループ用のテーブル、マーカーペン、ブレインストーミング用のメモ用紙、フリップチャート用紙、グループごとにホワイトボード/黒板/壁面、プロトタイプ作成用の材料(上記参照)。デザイン思考には、創造性とリスクが許容される安全な環境が必要です。
デザイン思考の最も難しい側面はどれがよい洞察かを見きわめることです。ここに注意してください。洞察は、特定の文脈に定着しているシステムの「なぜ」や「どのように」を説明するものであるべきです。こうした洞察は、たいてい個人的な経験、ストーリー、エンゲージメントから生まれます。洞察はデータポイントではなく、予備知識、新しいデータ、直観の組み合わせであることが多いのです。
もっと知るには?
Website: www.dschool.stanford.edu/resources.
Faste R, Roth B, Wilde D J 1993. Integrating Creativity into the Mechanical Engineering Curriculum. In: Fisher C A (ed.), ASME Resource Guide to Innovation in Engineering Design, New York: American Society of Mechanical Engineers.
Seelig T 2012. inGenius: A Crash Course on Creativity. New York: Harper Collins.
【訳注】
*発言せず、ポストイットなどを利用した方法
**「アウトプット」は、短期的に得られる、活動の結果(成果物等)。「アウトカム」は、中期的に得られる、活動の効果・成果。
このリーフレットは、td-netによる「知の協働生産のためのツール集」を翻訳したものです。最新の情報については、td-netのウェブサイトをご覧ください。
(https://naturalsciences.ch/co-producing-knowledge-explained/methods/td-net_toolbox)Pearce, B. 2020. Design Thinking. td-net toolbox profile (11). Swiss Academies of Arts and Sciences: tdnet toolbox for co-producing knowledge. (ピアス, B. 大西有子監訳 2022 『デザイン思考:td-netツールボックス ツール No.11』 総合地球環境学研究所)