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モスト・シグニフィカント・チェンジ(MSC) 手法
個人の経験からプロジェクトの最も重要なインパクトを明らかにするためのストーリーを基本にした定性的(質的)方法
モスト・シグニフィカント・チェンジとは?
モスト・シグニフィカント・チェンジ(MSC)は、複雑な介入など社会変革をめざすプログラムやプロジェクトにおける参加型のモニタリング・評価手法です。プロジェクトやプログラムの全過程または終了時に採用できます。MSC手法は、現場レベルのストーリーを聞き取り、個人や関係者のグループが重視する重要なアウトカム(成果*)を集め、その重要性を検討します。集まったなかから最も重要な変化を特定するために、指定されたステークホルダーグループ同士が話し合い、意見をまとめていく、体系的で透明性のあるプロセスも含まれます。そのプロセスを経て、さまざまな認識と優先順位について熟考し、どのような方向に向けて取り組めばよいかを確認することができます。
なぜ使うべきか?
MSC手法では、定性的(質的)でオープンな方法により、参加者が主導しながら、多様な(業種、立場、経験などが大きく異なる人々から構成される)関係者グループに関連するアウトカムを見きわめられるようになります。参加者が記録する内容を決定し、データの分析に関与します。異文化間のコミュニケーションに最適です。とても重要な変化が特定され、そこから予想外の変化が明らかになることもあります。それらを当初の予測や事前に決めた目標と比較することができますし、以降の定量的評価の基準とすることもできます。
いつ使うべきか?
MSC手法は、変化を起こそうとする複雑な介入、プログラム、プロジェクトのモニタリングや評価に特に適しています。こうしたプログラムは、多層の組織構造を特徴とし、きわめて多様なアウトカムを生み出すことがあります。MSC手法が向いているのは、i) 重視すべきアウトカムが何かはっきりしない場合、ii)評価対象となるアウトカムを事前に決めないボトムアップの取り組みの場合、iii)プログラムの価値基準や優先順位を受益者に合わせて調整することが重要な場合です。
どのように実施するか?
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調査中のプロセスに関連する変化の領域を3~5つ大まかに決めておきます(たとえば、介入プログラムの影響を受ける人々の生活の質[QOL]の変化)。対象の期間を定めます。
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さまざまな関係者(調査研究者、現場実践者:最も直接的な関係者)が、個人的な視点から、参加者にとって最も重要な実際に起きた変化を物語り、なぜ重要なのか理由を説明する短いストーリーを個々に提供します(プログラムとトピックの複雑さに応じて、長さは1~2ページ)。関係者は各自のストーリーをステップ1で決めた変化の領域に割り当てます。
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変化の収集が終わったら、皆で集まって、声に出してストーリーを読み、報告された変化(分析)の重要度について話し合います。そして領域ごとに最も重要な変化を1つ選びます。
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グループの規模と組織や階層の複雑さに応じて、この選別の作業は数回必要になる可能性があります。ストーリーの選択基準を記録し、毎回フィードバックを行います。
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予想に対する結果を話し合い、学んだ教訓を集め、ストーリーを文書に残します。 考え方の相違をどう埋めるのか?さまざまな経歴をもつ参加者がある変化を重要だと判断する理由を話し合うことで、考え方の相違が埋まります。話し合う過程で各自の根底にある価値観と優先順位を比較することができ、考え方の相違するグループへの理解が深まります。
アウトプット・アウトカム**は何か?
アウトカムは、グループの人々が協力して遂行したプロセスの最も重要な変化を集めたものです。プロセスをどう認識したかについてのグループ内の類似点と相違点が分かります。
誰がどんな役割を担うのか?
プログラムの全関係者。大規模なプログラムの場合は、関係者グループの代表者。
モデレーター1名が中心となり、ディスカッションの進行役になります。
何を準備すればいいか?
参加者は各自のストーリーを書き留めるものが必要です。ストーリーの重要性を全体で話し合うときにはフリップチャートがあると便利です。
やらないほうがいい場合
プログラムが複雑ではなく、望ましいアウトカムもはっきりしており、従来の指標を用いた方法で評価できる場合(そのほうが時間がかからないため)。プログラムの目的が(社会の)変化をもたらすことではない場合。
【訳注】
*「アウトカム」は、中期的に得られる、活動の効果・成果。
**「アウトプット」は、短期的に得られる、活動の結果(成果物等)。
このページの内容はスイスアカデミーによる「知の協働生産のためのツールボックス」を翻訳したものです。
(URL:https://naturalsciences.ch/co-producing-knowledge-explained/methods/td-net_toolbox)
【引用例】
Wülser, G. 2020. Most significant change technique. td-net toolbox profile (4). Swiss Academies of Arts and Sciences: td-net toolbox for co-producing knowledge.(ヴュルサー, G. 大西有子監訳 2022 『モスト・シグニフィカント・チェンジ-td-netツールボックス ツールno.5』総合地球環境学研究所)